今できることから着実に
2050年カーボンニュートラル実現に向けて、全日本トラック協会が新たに「トラック運送業界の環境ビジョン2030」を策定した。脱炭素化の動きが加速する中で、具体的に何ができるか、可能なところから取り組めるよう分かりやすく示した。
全ト協では2014年に策定した「新・環境基本行動計画」から時間が経ち、2年前から計画見直しの議論を進めてきた。2050カーボンニュートラル宣言があり、トラック運送業界に求められる課題も増す。新たにビジョンとしてCО2排出量削減に主眼を置き、3段階の行動メニューを掲げた。
これまでの行動計画にも10の指針を掲げたが、今回は大きく3段階にまとめたうえで、業界団体、事業者がそれぞれの立場で「これならできそう」という行動メニューを選べるようにしたのがポイントだ。各メニューで貢献できるSDGs(持続可能な開発目標)の例も併記した。
また、前計画にはなかった具体的な目標を設定した。メイン目標のCО2排出原単位05年度比31%削減は、経団連のカーボンニュートラル行動計画にあるトラック運送業界全体の目標と統一性を図った。
サブ目標の1つ、車両総重量8t以下の電動車保有台数10%は、政府のグリーン成長戦略目標である、商用車新車販売20-30%に対し、25%のシミュレーションを行い10%と推定したもので、現実的な数値といえる。
2つ目の「各事業者が自社のCО2排出量・排出原単位を把握」がビジョンの実効性において大きな肝になる。全ト協ではトラック運送事業者用のCО2排出量簡易算定ツールとマニュアルをホームーページに掲載する予定で、各社の実情に合った方法で算出、目標設定、行動へと結びつける。
把握する内容もまず排出総量を、次いで車両別の走行㌔あたり排出量、荷主別の輸送㌧㌔あたり排出量と段階的な取り組みを促す。無理せず、今できるところから着手する。
事業者数で圧倒的多数である中小が前向きに動く。個々の積み重ねがトラック運送業界全体の脱炭素化へ大きなインパクトになる。
先般明らかになった日野のエンジン認証不正行為はユーザーの信頼を損なうものだが、背景には現場の数値目標達成やスケジュール厳守のプレッシャーがあったという。
脱炭素化の動きは一方で直近の企業業績のコスト要因にもなっている。経営の重点テーマだが、柔軟性を持たせできるところから進めたい。