物流維持へ一億総「協力」を

ヤマト運輸労使が、宅配便の総量抑制を検討していることが、広く内外に波紋を広げている。

ネット通販貨物が想定以上に増え続けるなかで、厳格な時間指定サービスなどをクリアするため、戦力確保のためのコストが増大している。

「物流危機」といった見出しが、新聞、雑誌、テレビなど多くのメディアで踊るようになった。他産業より労働時間が長く、賃金が低いトラック運送業の重要性、大事さがようやく世の中に認知されてきた。

ネット通販は、「送料無料」「即日配送」などを売り文句に、消費者の購買意欲をかき立ててきた。情報は瞬時に伝わるが、モノはそうはいかない。人が運ぶ必要がある。そこには人件費や委託費がかかり、労働需給の逼迫を背景にそのコストが増大している。

ヤマト運輸では、とくに労働力確保が困難な都市部に物量が集中し、労働需給の逼迫感が一層悪化したことが、第3四半期の減益要因になったと分析している。

経済産業省によると、我が国のネット通販市場は、2015年で前年比7・6%増の13・8兆円で、今後も拡大が見込まれている。「時間帯指定」や「翌日配達」など、今や水や空気のように当たり前になった便利な物流サービスだが、そのサービスの維持が限界に近づきつつある。

労働需給の逼迫は、もちろんヤマト運輸に限った話しではない。中小企業からも「受注はほぼ前年並みの状況を確保しているが、人員不足が続いているため、請負が一部で困難化している」との声が聞かれる。

消費者、荷主の要請に対し、これまでトラック運送事業者は無理をしてでも運び、消費者や荷主はその無理に気付いてこなかった。今回のように、物流側が無理をしていることが表面化し、世の中に伝わることは、物流業界、トラック運送業界にとって歓迎すべきことだ。

政府は安倍首相が先頭に立ってまさに「働き方改革」を推し進めている最中だ。他産業に比べて、労働時間が長く、賃金が低いトラック運送業の労働環境を底上げするチャンスだ。

石井国交相は3日の閣議後会見で、ヤマト運輸のサービス見直しについて「今後とも物流業界が役割を果たしていくためには、長時間労働の是正や処遇の改善で担い手を確保し、生産性を向上させていく必要がある」と述べ、荷待ち時間の削減や附帯業務の有料化など「荷主の協力を得て物流生産性革命をしっかり進めていくことが重要だ」と強調した。物流を維持するため、一億総「協力」が必要だ。