転嫁円滑化と生産性向上を
全国中小企業団体中央会(全国中央会)の調査によると、8月の景気DIは全ての指標で前月比低下した。物価高騰により消費者の節約志向の高まりと、燃料コストの高止まりの影響が長く続いている。
中小零細が多くを占めるトラック運送業はとくにエネルギー・原材料価格上昇分の価格転嫁が遅れている。そこに10月からの最低賃金の引き上げ、さらに時間外労働時間の上限規制適用(24年問題)まで半年を切り、人手不足問題が収益を圧迫し原資の確保を懸念する声が強まっている。
景況面では一時の半導体不足の解消から自動車関係など輸送数量の回復が聞かれるが、物価高による消費者の節約志向、買い控えも物量に何らかの影響を及ぼす。売上・利益両面で先行き懸念材料が増す。
全国中央会8月調査による運輸業の指標をみると、景況DIマイナス25・2は昨年10月(マイナス29・0)以来、収益状況DIマイナス29・9は今年1月(マイナス30・8)以来の低水準である。物量の回復や一定の価格転嫁から売上高DIは好転・悪化の中間であるゼロから上下を繰り返すが、8月はマイナス6・3と再び水面下だ。
政府は月内に取りまとめる経済対策の柱の1つに「地方、中堅・中小企業を含めた持続的な賃上げ、所得向上と地方の成長の実現」を掲げる。燃料高では石油元売りへの補助金を拡充したが、さらに迅速な対応が望まれる。
若い世代の所得向上や人手不足対策の観点から、「年収の壁」、「就労の壁」を乗り越える支援を盛り込むという。これら措置も重要インフラである物流をしっかり下支えするものでなければならない。
岸田総理は中小・小規模事業者の賃上げについて「省人化、省力化投資への支援を行い、カタログから選ぶように使いやすい措置」を講じるほか、取引適正化に向けては「地元の最低賃金の上昇率や春闘の妥結額を基礎に価格交渉を行うなど、労務費転嫁の分かりやすい指針を年内に公表する」など発言している。
物流は一連のパッケージ施策で商慣行是正、DX支援を集中的に行うが、とくに中小・小規模事業者への継続的措置が急がれる。賃上げの環境整備としても価格転嫁の円滑化とともに生産性向上への投資活性化が重要だ。
生産性向上を通じた賃上げに取り組む事業者支援に厚みを増し、中小・小規模事業者も時代の変化に果敢に挑めるよう施策が待たれる。