燃料安、人手不足で帳消し

トラック運送事業は国内物流の大宗を担う基幹産業であり、災害時にはライフラインとしての高い評価を受けているが、トラック運送業界では、必要なドライバーを十分に確保できていない状況にある。
業界のドライバー不足は深刻で、ここ1カ月、メディアでも「物流クライシス(危機)」「物流ショック(衝撃)」の言葉とともに、トラック運送事業の長時間労働で低賃金な実態が報じられた。
では、経営実態はどうであろう。全日本トラック協会が発表した2015年度決算版経営分析報告書は、トピックとして燃料価格の動向と人手不足の問題を取り上げ、分析、考察を加えている。
2015年度経営分析によると、燃料価格の下落にもかかわらず、営業黒字の事業者は51%にとどまった。売上高営業利益率はプラス0・0%となり、8年連続の営業赤字に終止符を打ったが、貨物運送事業の営業利益率はマイナス0・3%と依然として赤字が続いている。
燃料価格の動向をみると、15年度決算版報告書の対象期間である14年10月から16年8月までの間、軽油ローリー価格は1㍑72円45銭~111円51銭の範囲で推移し、23カ月の平均は82円60銭と、前年同期に比べ20・9%下落している。こうした軽油価格の下落は、燃料油脂費比率を縮減させ、その結果、営業利益率を押し上げる効果があった。
しかし、貨物運送業部門だけを見ると、必要なドライバー数を確保できないため、時間外賃金の増加など人件費が増加したことに加え、外部委託の傭車費の増加などが営業利益を圧迫した。燃料価格が下落したものの、人手不足による人件費アップにより、営業赤字の改善は限定的となった。
報告書は、ドライバー不足が「営業利益率の悪化に直結している」と指摘している。
ドライバーの不足は、稼働できる車両数を減少させる傾向があり、人件費比率の上昇にもつながっている。運転者の減少を上回る水準で人件費単価が上昇し、人件費比率がアップし、利益を圧迫するというのだ。
燃料価格の下落効果は、運転者不足を要因とする人件費比率、傭車費比率の上昇、実働率の低下などにより打ち消しされ、利益回復は限定的となったのだ。
報告書は「今後、燃料価格が再び上昇し、ローリー価格で1㍑あたり100円を超えるような状況になれば、トラック運送業には極めて深刻な影響がある」と警鐘を鳴らしている。