担い手にやさしい物流を実践

コロナを契機にEC市場の拡大が加速化している。物流現場の労働環境の変化に注視し「再配達」に「送料無料」問題もしっかりと向き合う必要がある。改善しなければ物流危機はより深刻な状況に陥る。
昨年度の国内ラストワンマイル物流市場は前年比27%増の2兆5380億円(矢野経済研究所の調査)と大きく伸長。今年度は前年比8・8%増、22年度は3・4%増、23年度は2・4%増と伸びは緩和も右肩上がりが続く。6割を占める通販が牽引し堅調に推移するとみるが、同調査においても人口減によるドライバー不足に根本的な解決策がないと指摘する。
宅配便再配達率は国土交通省の4月調査で11・2%。前年の8・5%を上回ったが、全国一律の緊急事態宣言による外出自粛の影響があった前年より在宅時間が減少したことが影響した。2年前(16・0%)よりは改善しており、新たな物流施策大綱では「25年度7・5%程度」を掲げる。需要の増大に対し、置き配など新たな受取手法も浸透しつつある。非接触対応へ運送事業者もトライアルを重ねその成果も聞かれる。
再配達の是正は労働力不足だけでなくCО2排出削減にもつながる。消費者への一層の働き掛けが有効だ。国は「ホワイト物流推進」運動で情報発信に努めるが、新たな物流大綱にある〝担い手にやさしい物流〟で、消費者広報の目標値としてこれを実践する消費者の割合80%を掲げたことは大きな意義がある。
根が深いのは送料無料問題だ。何も手をつけなければ消費者に誤った認識を植え付けかねない。その結果として、運送事業者が適正運賃を収受できず、企業収益力の低下と人材が集まらないという〝ものが運べない〟事態が現実味を帯びることを広く毅然として主張していくべきである。
運輸労連の難波淳介委員長は先日の定期大会のあいさつの結びにあたって「送料無料表記をなくし、社会インフラであるトラック運輸産業、ドライバーが正しく評価される時代を作り上げなければならない」と強く訴えた。
消費者への誤った認識はトラック運送業に携わる労働者の地位そのものも低下しかねない。
コロナ禍でトラック運送業はエッセンシャル事業として着実に社会の信頼、評価を得ている。物流を止めないため、EC事業者への働きかけはもとより、消費者への訴えかけについても工夫し、知恵を出し合っていきたい。