原因分析に基づく対策を

高止まりにある事業用自動車の健康起因事故が昨年は大きく増加に転じた。自動車事故報告規則に基づき報告のあった件数は、2023年は前年より105件増え418件、4分の1が交通事故に至る。
各モードの報告件数を運転者数と比較すると、運転者1万人当たりでトラックは1・6件、タクシーは2・2件、乗合バスは26・7件、貸切バスは9・8件と開きがある。しかし交通事故に至った件数に限ると、トラック0・6件、タクシー1・2件、乗合2・4件、貸切1・3件と大きな変化はなく、各モードとも一定数の事故が発生していることが確認できる。
健康起因事故は重大事故につながることが多く、社会的にも大きな注目を集める。人手不足が深刻化するトラックもこれら事案が起きれば業界全体に影響し雇用環境はより厳しくなる。
ここ10年の疾病別の状況では、心臓疾患、脳疾患、大動脈瘤・解離が全体の3割。これら疾病で亡くなる運転手が4分の3を占める。
国土交通省ではこの間、各種ガイドライン・マニュアルの策定・改訂や、スクリーニングモデル事業などを進めるが、とくにSAS(睡眠時無呼吸症候群)が疑われる事案の把握が課題とし、対策を講じる考えだ。
日本の男性トラック運転手の約7~10%、女性の約3%が中等度以上の睡眠呼吸障害があるとされ、既存の研究においてはSASの有無により自動車の事故率は2・4倍の差があるという。意識が失われた状況での追突事故など今年の事故報道でも散見される。
国交省ではSASが疑われる居眠り運転、漫然運転による事故を健康起因事故として報告することを明示(22年9月通達改正)し、さらに因果関係を把握するため、事故前後のSASスクリーニング検査の受診状況を報告するよう今月通達改正した。
現行の「事業用自動車総合安全プラン2025」には「原因分析に基づく事故防止対策の立案と関係者の連携による安全体質の強化」を重点施策の1つとし、ここに健康起因事故への対応を盛り込んでいる。
大きな課題である飲酒運転対策も、アルコール依存症として健康起因の観点でとらえる見方もある。
健康起因事故の報告件数の増加は、それだけ事業者の健康起因事故に対する意識の向上ともとらえられる。事業者により確実な対策を促すにもさらに踏み込んだ原因分析が望まれる。