将来にわたり安定人材確保を

今年のトラック倒産件数は、8月が4カ月ぶりに前年を上回ったが、1―8月累計では前年同期を大きく下回る。しかし要因別にみると状況は異なってくる。
東京商工リサーチ(TSR)によると、減少傾向は燃料費を中心に荷主との交渉で価格転嫁が進んだ企業が多いと分析する。トラックのいわゆる「物価高」関連倒産は、1―8月累計で55件と、前年同期(92件)より4割の減少。前年に増加した反動もあろうが、一定の価格転嫁が進行していることは伺える。
一方、「人手不足」関連倒産は1―8月累計で36件と前年同期(31件)を上回る。求人難や人件費高騰などによるもので、人手不足の深刻化はとりわけ小規模事業者の経営を圧迫する。人件費も含め、コスト上昇分の価格転嫁を粘り強く進めなければならない。
水嶋智国土交通事務次官は、重要なインフラである物流への理解を荷主、国民に求め、「対価がしっかり払われ、魅力ある職場となる環境を整えていく」との考えを述べている。ドライバーの確保には正当な対価が支払われること。そのためには人件費をはじめ、必要なコストを社会全体で負担する理解を求めていくことと主張する。
一連の法改正による規制的措置など、その環境整備は進むが、足元では体力がもたない事業者が経営を断念する状況にあるのも現実だ。
交通労連トラック部会の織田正弘部会長は先の中央委員会で、トラック適正化2法による適正原価制度の導入に期待を示しながら、「告示は3年以内であり、そこまで待ち続ける余裕、持久力はない」とし、日々適正運賃・料金収受に努めることを呼び掛けた。
こうした中で、今年度の最低賃金の改定額は6・3%、引き上げ額は過去最大の66円、全国加重平均は1121円となった。小規模事業者ほど、賃金上昇分の価格転嫁への割合は低く、収益への影響が懸念される。
政府は最低賃金の引き上げへの対応として、生産性向上の支援策を強化する方針だ。業務改善助成金、ものづくり補助金、IT導入補助金、中小企業省力化投資補助金において、対象の拡大や要件緩和などの措置を講じる。
物流の構造的問題はすぐには解決できない。足元の適正運賃・料金収受により企業体力をつけ、これら生産性向上への支援策も見据え、将来にわたり安定した人材を確保する努力が必要だ。