ヤマト 運賃値上げの意義

ヤマト運輸が10月1日から個人向け宅配便の基本運賃を27年ぶりに値上げする。

サービス面では、19日から職場環境を改善するために、12~14時の配達時間帯の指定枠を廃止し、20~21時の指定枠は「19から21時」に変更している。

大口取引の法人顧客には、契約運賃の見直し交渉を進め、すでに値上げに応じた荷主もあれば、逆に採算の取れない一部の荷主からは契約を打ち切られている。

個人顧客への値上げ、サービスレベルのダウン、一部荷主との取引を打ち切ってまでも運賃の見直しに踏み切った背景には、ヤマト運輸1社だけの問題でなく、トラック運送業界など物流業界全体の低収益体質という問題があった。

つまり、運賃の下落傾向が止まらないこと、その影響で生まれる低賃金長時間労働、その職場環境を嫌って人手が集まらない――という負のスパイラルは、宅配便だけにとどまらない運送業界全体の問題である。

ヤマト運輸の決断は、運賃値上げに対して、広く社会全体への問題提起を行うことで、国民に値上げやサービスダウンを受け入れることもやむを得ない、とする雰囲気を醸成したといえる。

大手各社の決算内容をみると、ドライバーをはじめとする人手不足による人件費、自社で賄えない分の外注費が上昇しており、転嫁せざるを得ない状況となっている。ヤマトの値上げは追い風となっており、佐川急便、日本通運、西濃運輸なども値上げ方針を表明している。

全日本トラック協会が16日にまとめたトラック運送業界の景況感調査によると、1―3月期のトラック運賃・料金水準は一般貨物が5ポイント改善の2・3、宅配貨物は24・8ポイント改善の16・7とマイナスからプラスに浮上した。

ただ、1月以降の軽油価格上昇や人手不足などにより営業利益が悪化し、景況感の判断指標は2・5ポイント下落のマイナス15・3とマイナス幅が拡大した。さらに4―6月期は、貨物量の減少、燃料コストや人件費等の高騰懸念から同25・4と2四半期連続で悪化する見込みだ。

17日と18日の両日、会社に宅急便の総量抑制と値上げを要請したヤマト運輸労組の中央研修会が開かれ、長尾裕社長が講演した。長尾社長は「トラック運送業界は20数年間、運賃が下がり続けている」と指摘し、ヤマト運輸が27年ぶりに実施する適正運賃収受の動きが、業界の底上げになるとの認識を示した。

持続的な取引が可能な運賃・料金の見直しは、待ったなしだ。