社説:思い切った処方箋が先決だ
国土交通省が、営業用トラックへの運行記録計装着義務付け範囲拡大について、当面は車両総重量7トン以上8トン未満の範囲にとどめる方向で調整に入った。さらに、デジタル式にこだわらず、アナログ式も認める方向で検討している模様で、業界の反発を踏まえて譲歩したかたちだ。
運行記録計の義務付け拡大については、2011年11月に開かれた国交省検討会の初会合で、最大積載量1トン以上、車両総重量3.5トン以上の中小型トラックにまで範囲を拡大する案が提示され、しかもデジタル式に限るとの内容だったため、トラック運送業界側が猛反発した。
そもそも営業用トラックへの運行記録計の装着義務付け範囲拡大は、2009年3月に同省がまとめた「事業用自動車総合安全プラン2009」に盛り込まれ、長距離運転が常態化しやすい車両として、「車両総重量7トン以上8トン未満」の範囲が例示されていた。
であるのに、国交省が検討会初会合で提示した案は、ほとんどすべての営業用トラックにデジタル式運行記録計の装着を義務づける内容だったため、業界側が反発したものだ。
なかでも東京都トラック協会は反対署名活動を展開し、関東の業界全体に呼びかけて6000人を超す反対署名を集め同省に提出した。
こうした動きを受けて、同省は昨年8月に開いた検討会で拡大範囲の白紙撤回を余儀なくされ、その後会議が開かれない状態が続いている。
東ト協は、同省の監査方針・処分基準改正案に対するパブリックコメントでも「行政処分の強化を図るだけでは根本的解決にはならない」との意見を提出し、重要法令違反に対して即時30日間事業停止とする同省案に対し、「違反は実運送事業者の一方的理由によるものだけではない。違反の背景も考慮しないで、一律的な事業停止処分は行うべきではない」と反発した。
このところ、国交省の施策に異論を唱えることが多い東ト協だが、その背景には、行き過ぎた規制緩和による過当競争で疲弊した業界に対し、思い切った処方箋を示せない同省へのいらだちがあるように見える。
同省は将来ビジョン検討会で最低車両台数規制をはじめとする規制強化策を検討しているが、これといった決定打がないのが実情だ。一方でデジタコの義務化や行政処分強化などの安全規制強化策は次々と打ち出されてくる。
まず、参入規制や運賃制度など、疲弊した業界を治癒するための思い切った処方箋を示すことが先決ではないだろうか。