苦しむ事業者支える知恵を

トラック産業将来ビジョン検討会に設置された、最低車両台数・適正運賃収受ワーキンググループ(WG)が、適正運賃収受に向けた取り組みについての審議を開始した。
 WGでは、事業者代表委員から、「時計の針を戻せとまでは言わないが、何らかの標準的な運賃を示してほしい」、「事業法に基づく標準運賃の設定が必要だ」などと標準運賃の設定を求める意見が目立った。
 業界には従来から、①認可運賃に戻すべき②標準運賃を設定すべき③標準原価を設定すべき──といった声がある。何らかの国の関与の下で、事業者が共有できる基準、目安を示してほしい、という要望だ。
 WGの野尻座長はこうした声に対し「他の交通機関との法制度上の整合性、諸外国の事例、荷主・元請け等関係者間での実効性、算定方式等の理論的・技術的な妥当性──を検証してはどうか」との見解を示したうえで「認可制に戻る議論は難しい」と認可制回帰論を否定した。
 さらに国交省の志村貨物課長も「他の物流関係交通機関で認可運賃や標準運賃を採用している例はなく、諸外国でも自由だ」としたうえで、「認可運賃時代でも、目安から2割引、3割引となるのが実態で、実効性を考えると難しい」と標準運賃の設定も困難との考えを示した。
 トラック運送事業者は、安全確保、労働環境の維持、法令順守の観点で、余裕のない事業経営を強いられている。運賃水準の下落が進む一方で、年々強まる安全や環境などの社会的要請に応えていかなければならないからだ。
 ところが、肝心の運賃水準の下落を示すデータが少ない。
 WGでは、全日本トラック協会がまとめた非公表の運賃実態調査結果が取り上げられたが、実勢運賃は2003年を100として、2010年は99・1と下落幅は0・9ポイントにとどまっているとの調査結果で、どうも事業者の実感と離れたものになっているようだ。
 このため事業者委員からは「この間、車両価格の上昇や軽油価格の高騰もあり、事業収支は運賃の下落幅以上に大きく傷んでいる」と厳しさを訴える発言もあった。
 一言で「運賃水準」といっても、元請けから下請けまでの取引多層化が進んだ現在では、どの段階での運賃を見るかでその水準は異なってくるのではないか。
 トラック運賃に国が関与する難しさはわかるが、余裕のない経営を強いられながら社会の負託に応えようとする事業者を底支えするためにも、WGの知恵と工夫に期待したい。

(日本流通新聞2010年10月18日付)