歴史の転換点になるか
国土交通省が、トラック運送事業の参入規制である、最低保有台数を引き上げる方向で検討しているという。
トラック運送事業は、これまでの数次にわたる規制緩和により、小規模事業者が増加し、下請取引の多層化が進んで運賃水準の下落に拍車をかけている、と言われている。さらに、運賃下落に伴い社会保険にさえ入らないなど違法事業者が増え、いわば「安かろう、悪かろう」の実態が指摘されている。
国土交通省では、小規模化がその元凶と見て、一定の歯止めをかけるべく保有すべき台数の基準を引き上げることを検討しているようだ。
国交省のこれまでの検証によると、トラック運送事業を巡る需要と供給のバランスは、タクシーのような供給過剰状態にあるとは言えないという。
90年の規制緩和以降、事業者数は1・6倍に増えたが、輸送トンキロも1・6倍に伸びている。これに対し、輸送トン数とトラック保有台数は1・2倍の伸びにとどまっている。08年秋のリーマンショックにより輸送需要は大幅に落ち込んだが、これに伴って営業用トラック保有台数も2年間で5万台、4・5%減少している。需要減少時には機動的に減車を行っていることから同省では「市場メカニズムが働いている」と分析しているようだ。
ただ一方で、保有台数10台以下の事業者の割合が半数を超えるなど小規模化が進んでおり、これが、小規模事業者の増加→下請多層化の進展→下請事業者間の競争激化→運賃の下落→法令違反事業者の増加へとつながり、法令違反を前提とした運賃が横行しているのでは、と分析している。
業界内でもこうした指摘は以前からされており、トラック産業ビジョン検討会でも最低車両台数の引き上げを求める声が相次いでいた。
トラック運送事業のこの四半世紀は、規制緩和の歴史だった。内閣府の試算によると、90年以降に行われた規制改革による利用者メリット(価格・料金の低下を通じて利用者にもたらしたメリット)はトラック運送事業だけで3兆8763億円に及ぶ。電力や石油製品、移動体通信の規制改革より大きなメリットを利用者は享受したことになる。その代償が現在の業界の姿だ。社会保険未加入率は25%に達し、許可基準である5台に達しない事業者の7割は違法状態だ。
最低車両台数引き上げが実現すれば、トラック運送業界にとって歴史の転換点となることは間違いない。国交省の今後の検討に期待したい。
(日本流通新聞2010年6月7日付)