将来ビジョンへの期待
トラック産業の将来ビジョン作りがようやく本格的に動き出す。政権交代で先送りされていたものだが、年が明けて新政権にも余裕が出てきたということなのだろう。ともあれ、課題山積のトラック運送業界にとっては歓迎すべき動きだ。
新政権の下でのビジョンづくりに当たってのキーワードは「成長産業」だ。今後一層の取り組みが要請されるであろう地球温暖化対策や安全対策、他の先進国が経験したことがないほどの急速な少子高齢化・人口減少、アジアを中心とした経済のボーダーレス化といったトラック運送事業を取り巻く環境変化を踏まえて、トラック事業を成長産業にしていくための道筋を描くという。
トラック運送事業は、中小企業が99%を占め、荷主から元請け・下請けに至るまでに何社もが介在する多重構造が特徴であり、そこに課題も少なくない。安全運行を確保するためには、こうした多重構造下での取引の適正化についても検討する必要があろう。
公正・公平な競争環境整備も大きなテーマとなる。社会保険未加入事業者や5台割れ事業者の存在といったルールを守らない事業者に対しては、一定の是正措置が制度として必要ではないか。正直者が損をしないような業界であるべきだ。
5台割れ事業者の問題とあわせて、最低車両台数基準のあり方も問われよう。規制緩和以降、事業者の小規模化が進み、10台以下の規模の事業者が占める割合は、10年前の46%から現在は57%へと増えている。こうした実態が業界にとって本当にプラスなのか。トラック輸送の安全性を担保するために、果たして5台という最低台数基準が適当なのか。掘り下げた検証が必要だ。
人口減少時代のなかで、若くて優秀なドライバーを確保することも大きな課題だ。免許制度の改変もあり、労働力として期待できる60歳未満の大型免許保有者数は、2030年には今より44%も減少すると予測されている。実効ある労働力確保対策が必要だ。
最大のテーマは、トラック運送事業の成長戦略だ。デフレ経済下で運賃水準の下落が続くなか、多くのトラック事業者は戦略を描ききれないでいる。何らか羅針盤のようなものを描くことができないか。
経営の課題や方向性は事業者の規模によって異なるだろう。経済のグローバル化、とりわけアジア域内のボーダーレス化を踏まえ、アジア諸国の経済成長の力を取り込む方策はないのか。自らの力で進出が可能な大手事業者だけでなく、中小事業者の接点も探るべきではないか。
(日本流通新聞2010年1月18日付)