運賃値上げ 中小に広がる

トラック運送事業者の適正運賃・料金収受に向けた取り組みが大手・中堅から中小へ波及している。運賃の値上げは不可避で、荷主企業は各方面の工夫を加えて受け入れざるを得ないという。

トラックは国内貨物輸送量の9割を担う。その担い手は規制緩和後、過当競争により荷主にとっては選択肢が増えたが、事業者は荷量の減少で価格交渉力を失い、競争激化により労働環境を悪化させてきた。

以前から、トラック運送業界は人手の確保が難しく、その背景には長時間労働や低賃金などのドライバーの待遇に問題があるといわれてきた。

大手は自社のドライバーだけでなく、多くのトラック運送事業者に委託して貨物を運んでいる。これまでは繁閑に応じて外部委託を利用することでコントロールしてきた。しかし、人件費や外部委託費が上昇し、業績に影響を与えている。

だからこそ、自動車運送事業の働き方改革に関する関係省庁連絡会議、国土交通省のトラック運送業の適正運賃・料金検討会、国土交通省と厚生労働省のトラック輸送の取引環境・労働時間改善中央協議会などが、適正取引や長時間労働の改善などに取り組んでいる。

こうした関係官庁の取り組みを受けて、労働条件の改善やドライバー確保などの原資として、適正な運賃・料金収受を位置づけ、荷主との交渉が進んでいる。トラック運送業界内では「値上げではなく、値崩れした部分の値戻し」との声も聞かれる。

いま「春闘」真っ最中のトラック労組関係者によると、大手企業を中心に荷主企業への適正運賃要請が行われ、7割程度の回答が得られているという。一方、中堅・中小事業者からも原価計算した資料を基に交渉し「3分の2以上の荷主から、(運賃値上げの)お願いを聞いてもらっている」という。

ある会合で中小企業のベテラン社長から「平成元年(1989年)の東京の最低賃金は548円、現在は958円で75%も増加している。だが、運賃はこの最低賃金に届かない。原価計算も結構だが、最低賃金さえ保証されていない現実を荷主に訴えたい」と、適正運賃の収受に向けて取り組んでいる話を聞いた。

「3年前からドライバーの労働条件改善のため運賃改定に取り組み、もしダメだったら撤退も視野に入れて交渉し、ほとんど了承してもらった」、「労働条件改善のため、あきらめず粘り強くやっている」などの声が聞かれる。運賃値上げの動きは、着実に広がっている。