岐路に立つ出版物輸送

「出版物輸送は、運賃が安すぎて経営が成り立たず、半数は2~3年以内に撤退を考えている」こんな危機的状況が、雑誌・書籍など出版物輸送を行う事業者で構成する東京都トラック協会出版・印刷・製本・取次専門部会(滝澤賢司部会長、23社)が実施した緊急アンケート調査で浮き彫りになった。

出版物輸送は、雑誌の売上低迷により物量が減少する一方、コンビニエンスストア(CVS)の店舗増加による納品先の拡大で、「売上が減り、コストは増えている」業種だ。

従来の重量運賃では、採算ベースにもはや追い付かなくなっており、運賃値上げを行っても、物量の減少と人手不足に伴うコスト増をカバーするに至らないのが実情だ。

これまでも出版不況が常態化するなか、輸送量が年々減少している上、運賃・料金の低迷が経営を圧迫し、出版物輸送からの撤退が目立つなど、その維持・存続が危惧されていた。人手不足が一段と深刻化し、雑誌や書籍が消費者の手元に届かなくなる事態が目前に迫っている。

こうした危機的状況を踏まえ、輸送事業者側の東ト協出版・印刷・製本・取次専門部会は8月21日、荷主団体(日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書籍出版協会、印刷会社、東京都製本工業組合、日本書籍出版協会)との「出版物関係輸送懇談会」を、従来の11月実施予定から前倒しで開催し、出版物輸送の現状報告と要望、荷主との取り組みなどについて意見交換した。

事業者側からは、「出版物輸送以外の仕事にシフトして何とか経営を維持している。同業者は『出版物輸送は納期が厳しく単価が安く、手を出してはいけない』との認識だ」といった厳しい現状報告があった。

これを裏付けるように専門部会部会員23社のうち14社から回答を得たアンケート調査は、「取次~店舗」の輸送事業者の9社中8社、「版元~取次」の輸送業者の4社中3社が「出版物輸送で経営が成り立っていない」と回答。それぞれ9社中5社、4社中2社が撤退意向を示した。撤退の可能性については「取次~店舗」の過半数が「2~3年以内」「1年以内」、「版元~取次」の全企業が「2~3年以内」と答えている。

また「今後、労働時間など、法令に基づく経営を行っていくことが可能か」の問いについては、14社のうち12社が「不可能」と答え、現状の出版物輸送では「コンプライアンスへの対応ができない」深刻な事態も明らかになった。

出版業界は今、岐路を迎えている。